(思い出の塩屋埼灯台)


大切なお客様がご家族で来訪します。1泊2日です。さて、どこをご案内するか。

 
当地は初めて。しかも、熱帯地方から来ます。温泉好きの高齢のお母様もいらっしゃる。

 
3案の中から選んでもらいましょう。ぎっしりスケジュールを詰め込むのではなく、要所を決めてあとは融通無碍なるままに。

 
浜通は海あり山ありですので、まず海コースと山コースに分けます。

 
【海コースの1(震災振り返りと温泉の旅)】

趣旨:原子力災害を中心とした学びと海を見ながらの温泉の癒しの旅です。
 

08:30湯本を出発。1時間少々常磐道を北上し双葉町に向かいます。

10:00〜10:50東日本大震災・原子力災害伝承館見学(入館料600円)。

11:00伝承館を出発。南下して楢葉町に向かいます。

11:30〜12:20天神岬しおかぜ荘にて入泉(入浴料700円)。黄金色のしっとりとした塩化物泉(海を望む露天風呂がある)が旅の疲れを癒してくれます。

12:25しおかぜ荘を出発。南下していわき市北部に向かいます。

13:00〜13:45久之浜の浜風きららにて少し遅い昼食(すし1500円程度)。

13:50浜風きららを出発。

14:10〜14:50ブルーマグコーヒーまたはベジハーブカフェにて歓談。私お気に入りのカフェでくつろぎの時間。

15:00カフェを出発。

15:20いわき駅着。
 

(アクアマリンふくしま)


【海コースの2(震災振り返りと温泉の旅)】

趣旨:津波災害を中心とした学びと海の生き物に触れる癒しの旅です。


09:00湯本を出発。30分ほど海岸に向かいます。

09:40〜10:10いわき震災伝承みらい館見学(無料)。

※近くの塩屋埼灯台(東北地方の登れる灯台3か所のうちの1つ)の見学を希望する場合はお母様と私は近くのカフェで待機。

10:30塩屋埼灯台を出発し小名浜に向かいます。

11:00〜12:00アクアマリンふくしま見学(入館料1850円)。

12:10〜13:00いわき・ら・ら・ミュウまたは近隣の海鮮の店にて昼食(1500〜2000円)。

13:05いわき・ら・ら・ミュウを出発し、鉱泉の宿に向かいます。

13:30〜14:20神白温泉国元屋にて入泉(飲めるアルカリ泉で知られる。入浴料800円)。

14:30国元屋を出発しいわき駅に向かいます。

15:00いわき駅着。
 

(秋風舎)


【山コース(高原と単純アルカリ温泉の旅)】

趣旨:阿武隈高原と温泉の癒しの旅です。
 

09:00湯本を出発。1時間少々北西方向に川内村に向かいます。

10:30〜11:20かわうちの湯に入泉(入浴料700円)。近傍で私が最も愛する温泉です。静謐な雰囲気が心の奥底まで癒してくれます。

11:30かわうちの湯を出発。下川内にあるカフェ「秋風舎」に向かいます。江戸期の古民家を改修したカフェ。陶芸家がオーナーです。

11:45〜12:30秋風舎にて昼食(1500円程度)。

12:30秋風舎を出発し、拙宅に向かいます。 13:00〜14:00拙宅にてお茶。 

14:00拙宅を出発。 

14:30いわき駅着。

(ハーゲンダッツの前にラーメンを食べました。未明にお腹を壊しました)


ひょんなことから、職場の最寄り駅の近くにあるホテルに泊まりました。いつもはただ通り過ぎるだけの場所が急に新鮮に見えてくるから不思議です。


誘蛾灯に引き寄せられる蛾のように、いつもなら赤ちょうちんのぶら下がる店に行くはずの私。このところ、酒類を控えています。


私の小確幸」で詳述しているように、宿泊先での楽しみは、アイスクリームと『ゴルゴ13』。しかも、特上のアイスクリームであるハーゲンダッツ一択です。


わずかこれだけで幸福を感じるように私の脳はできています。安上りです。


ただ最近、ハーゲンダッツ専用のスプーンが渡されなくなったことに不満を抱いています。密度の濃いハーゲンダッツに対し木製匙は弱いんです。


今回は、コク深いチーズと甘酸っぱいベリーとザクザク食感のクッキーを組み合わせた「ベリーベリーチーズタルト」を手に取りました。“新発売”にことに弱い私はすぐさま新商品に誘導されます。


『ゴルゴ13』は「DIPLOMACY 〜外交術〜」。「このままでは日本の未来は“敗北”のみだ!」と勇ましい言葉が表紙を飾っています。「日本」を「お前」に置きかえるとグサッときます。


3話を収録。「外交伝説の男」、「歪んだ車輪」、「凍った炎 フローズンブレイズ」です。「歪んだ車輪」は、タイ・バンコクの地下鉄整備に係る外国企業による争奪戦を描いています。現地に身を置いたことのある私。手に汗を握る思いで読みました。


心に残ったデューク東郷の言葉は「蓋然性に賭ける狙撃は、俺は行わない...」。絶対にできると確信が持てる場合のみに実行するゴルゴ13の姿勢に感銘を受けました。


私のテキトーさ加減が狙い撃ちにされた気分になりました。腹痛の蓋然性は100%です。

(徒歩通勤の風景。カエルの鳴き声がBGMです)


名前、名称。名づけることの持つ力はソシュール言語学の根幹をなす概念と言えましょう。「分節」というやつです。


モノが先で、名前が後。これが一般常識です。


これに対して反対ではないか、と主張した言語学者がソシュールです。


名前がつくことが先、名づけられて初めてモノが浮かび上がる。


例えば、蝶と蛾は異なります。違うものであると私たちは思っています。それは「蝶」と「蛾」という言葉によってモノが分けられている、分節されているからだというのがソシュールの論です。


現にフランス語では蝶も蛾も同じパピヨンですので、区別はありません。ですから、皮膚感覚で蝶も蛾も一緒だということです。


というわけで、唐突ですが、松尾芭蕉の『奥の細道』という名称が私は嫌いです。そんなに奥じゃないと思うんです。


日本の総面積はカリフォルニア州の9割にも満たない。そんな狭い日本で奥も手前もあるか、と思うのです。


細道の存在は認めます。魅力的な細道がそこかしこにあることも知っています。


そんなわけで、「奥でもない細道」プロジェクトを立ち上げられないだろうか、と独り思案しています。


春先に市内のゲストハウスに泊った際に仙台在住の方と出逢いました。


その方曰く、いわき市は仙台にとって盲点であり、通過点であり、気にならない地域である、と。日本中、世界中を旅してきたものの、今回がいわき初訪問だと驚愕の事実を教えてくれました。


「私、仙台はよく行きますけど、仙台の方はいわきって眼中にないんですね」


「そうなんです。来てみたら、いわきってなかなかいいところですね」


このような人たちに「奥でもない細道」プロジェクトで巻き込みたい。そんな野望を持っています。


先日、その方から「ただいまサマルカンドにいます」とのメッセージが届きました。


コーランが聞こえてきそうな地名ですが、どこにあるのか地球儀を出されても指差しできません。これぞ真のみちのく。羨ましさが募ります。


私もまた片雲の風に誘われて、漂泊の思いやまず。ウズベキスタンは無理でもどこかいい細道を徘徊してみたい。

(アンコウはとも酢で食べるのが好きです。画像提供:合同会社はまから。以下同じ)

2023タイ訪問記(13)終章〉からつづく

(1)常磐ものとは何?


いわき市で水揚げされた水産物は、震災前から築地市場等の水産関係者の間で「常磐もの」として高く評価されてきました。また、市内の水産関係者も「常磐もの」という言葉に誇りを持ち、大事にしてきました。そこで、いわき市では、2015年10月から水産業の地域ブランド「常磐もの」を開始しました。


(2)どのように評価されているの?


魚と言えば、やはり築地。特に水産物については世界最大級の取扱規模である築地市場で水産関係者の方々に常磐ものについて聞きました。すると、その99%が、「常磐ものは美味しい」と答えた(2015年、株式会社電通調べ)のです。日頃、常磐ものの魚が高値で取引されているのも納得の結果です。


(シラウオでしょうか、シラスでしょうか)


(3)どうして常磐ものは美味しいの?


いわき沖は寒流(親潮)と暖流(黒潮)が交わる豊かな漁場で、潮目の海と呼ばれています。黒潮は、貧栄養でプランクトンの生息数が少ないため、透明度が高く、海の色が青黒色に見えることからこう呼ばれています。一方、親潮は栄養塩が豊富でプランクトンが繁殖し、それを食べて魚が大きくなることから「魚を育てる親となる潮」いう意味で呼ばれています。潮目の海では、黒潮とともに北上してきた様々な魚が、親潮で発生したプランクトンを食べて繁殖するため、質のいい魚がたくさん獲れます。


(4)常磐ものはどのように届けられるの?


魚にとって大事なのは、魚そのものの美味しさもさることながら、その美味しさをいかにそのまま食卓に届けられるか。常磐ものは最新の設備で鮮度を保つための様々な取り組みを行っています。



(港のあさ)

(5)安全性は大丈夫なの(沿岸部編)?


沿岸(陸からおおむね50km)エリアで行う漁を沿岸漁業と呼んでいます。底ひき網漁を中心に、かご漁や潜水などさまざまな漁法があり、カレイ、メヒカリ、ヒラメなどの底魚やタコ、ウニ、アワビなど市場にはいろいろな魚介が届きます。

いわきでは、原発事故の影響により、小規模な操業と販売を行う試験操業を行ってきましたが、2021年3月に試験操業を終了し、同年4月から本格操業に向けた移行期間として、水揚量、流通量の拡大を目指しているところです。 なお、漁獲された魚介類の放射性物質スクリーニング検査は、継続して行っており、安全性を確認してから出荷しています。


(6)安全性は大丈夫なの(沖合編)?


陸の近くで行う沿岸漁業に対し、沖合で魚を獲るのが沖合漁業です。沖合漁業は、原発事故の影響がなく、震災後、間もなく通常操業を再開しています。

沖合漁業で水揚げされるカツオやサンマ、サバなどの回遊性魚種は、福島県の沿岸海域で漁獲されたものではありませんが、水揚された港が「福島県」「いわき市」であるだけで、今でも市場関係者や消費者から敬遠されている面がみられます。このようなことから、回遊性の魚に対しても、放射性物質スクリーニング検査を行い、安全性を確認してから出荷しています。

(宿舎のテラス)


2023タイ訪問記(12)バンコク第3日目(続)〉からつづく


金曜日夕方にバンコクに到着、月曜日午後に帰国便に搭乗。稼働日は土日という2日間。いかに練乳のように濃厚で実りある滞在にするか。


とにかく人に会って話を聞く。問いを投げかけ、考えを聞く。五感を研ぎ澄まし、いまのバンコクの空気に触れる。


これに尽きると思いました。


加えて、今回いっしょにバンコクをめぐることとなった水産流通会社のKさん、いわき市久之浜の水産業者のAさん、市役所のM課長のそれぞれが抱いているタイの食文化や「常磐もの」に対する思いに耳を傾けることにも努めました。


(右側からAさん、Kさん、筆者。常磐ものをめぐって度々語らいました)


したがって、自分の欲望(プラトゥーナームのカオマンガイの店やプラチャーティッパタイ通りの鴨肉と杏仁豆腐の美味しい中華料理店プーンシン、かぼちゃプリンの屋台、クィティアオ(米粉麺)の屋台、セラドン焼やベンジャロン焼の陶器の店、カフェAmazon、母校のタマサート大学訪問等)は諦めました。


ドラッカーは何を捨てるか、つまり劣後順位こそ重要だと訴えています。しかも、その決定には分析ではなく勇気が必要だと。


嗚呼、サンカヤーファクトーン(かぼちゃプリン)が食べたかった。バンコクで久之浜のヒラメは味わえたけれど、本場のカオマンガイが食べられなかった...嗚呼。


(ヒンズーの神々が見守る出発ロビー。スワンナプーム空港)


今回の訪問を通して印象に残ったことを4点に要約します。


・己れの古い物差しに囚われないように情報と意識の時点修正をつねにしていくことが肝要。タイの食文化の変貌が想像以上であった。あるタイの友人は「ヒラメは活け締めしないとだめなんですよね」と言ったのにはびっくり。


・潮流を見極め、その潮流を生かすことができれば持てる力以上のものが発揮できる。今回、往路の飛行機(エアバスA330-300)の最高対地速度はインドシナ半島上空で885km(マッハ0.72)。復路は太平洋上空で1,114km(マッハ0.90)とエアバスの同型機の巡航速度0.82を超えました。ジェット気流に乗ったからです。「常磐もの」も日本料理への熱い眼差しに応えることができれば飛躍できるはず。


・「常磐もの」は本来、いわき沖をはじめとする潮目の魚介類を指す。海のものだけでなく、農産物や林業の加工品まで含め山の「常磐もの」、またフラの文化といった無形の「常磐もの」までを包含したパッケージとしてブランド化していく方が訴求力があるのではないか。


・「常磐もの」を獲る漁業に携わる人々にもニーズが日本国内に留まらず、タイの人々が「常磐もの」に対し強い関心と期待を抱いていることを伝え、訴えていく必要がある。地域の水産業が持続可能な生業となることを願ってやまない。



(雲海を見ると蕎麦焼酎を想起します)

帰国当日の朝。宿舎近くのマッサージ店をふたたび訪れました。全身1時間コース(250バーツ≒1,000円)です。


タイ東北部出身だという施術者と談笑しながら...。


「東北(イサーン)出身なんですね。私、イサーン料理が大好きです」


「っていうことは、イサーンに恋人がいるんでしょう」


「いるわけないですよ」


「いるに決まってる」


冗談を飛ばしながら太腿を凄い体勢で引っ張ります。


「痛て痛てぇ〜」


「がまん(オットン)!」


懸念された航空券の姓の誤り(「2023タイ訪問記(2)搭乗危うし」を参照)も特に問題なくパス。無事に3泊のバンコク訪問を終えました。


<2023タイ訪問記(14)(付録「常磐もの」とは)>へつづく(完)

(常磐もののヒラメ。花屋にて)


2023タイ訪問記(11)バンコク第3日目(下)〉からつづく


日曜日。午後8時を過ぎていました。それでも店内は賑わっています。見渡した感じでは客はほとんどがタイ人です。


「常磐もの」PR隊とも言うべき4名がカウンター席に陣取ります。80年以上の歴史を誇るタイで最も古くから営業している日本料理店「花屋」。


留学時代はソイと呼ばれる脇道の屋台料理を常食としていた私。高嶺の花だった「花屋」を訪ねる機会はありませんでした。


いまこうして35年以上の時を経て「花屋」のカウンター席に座っていることに感慨深いものがあります。ネタケースのホシザキのペンギンマークが不思議と安心感を与えます。


ホシザキの創業者・故坂本薫俊社長は述べています。


「製品が顧客の信頼を得れば、その製品についているシンボルマークに価値が出てきて、そのマークのついている製品は同様に信頼できるということになる」(ホシザキ株式会社ウェブサイト


「花屋」三代目の綿貫賀夫さんと初めての対面。タイ生まれ、タイ育ちです。日タイ両語に堪能。


(タイで最も老舗の日本料理店「花屋」)


今回の訪タイを通して感じた疑問を投げかけました。いつ頃から、どのようなきっかけでこれほどまでに日本料理がタイの食文化に浸透していったのか。


「10数年前からですね」


「10年以上前からの動きなのですね」


「日本に旅行に行ってきたタイ人がこういう料理は出せるか、などと言ってくるようになり、私もYoutubeなどを見て学んで...タイ人から教えられているんです」


三代目と親交の深い水産流通会社のKさんが目の前の刺身について解説してくれます。


「花屋さんはもちろん常磐ものをはじめ日本からも鮮魚を仕入れています。同時にタイ近海の魚も刺身で提供できるものがないか模索しています。これがそうです」


さっぱりしてまた違った味覚を感じました。美味しい。いけます。「花屋」の姿勢に不易流行を読み取りました。


(タイ近海ものも美味でした)


日本料理という一本の筋を通しつつ、現地タイの鮮魚も採り入れる。挑戦し続ける中に新しい価値が生み出されるのだろうと思います。


閉店時間が迫ってきました。板前の皆さんがネタケースを空にして入念に洗浄しています。


「毎日ネタケースを空にして洗うんですね」


「においが(寿司ネタ)に移りますからね」


そうか、そういうことか。


店主に通りまで出て見送ってもらいました。真心に心打たれた出会いとなりました。次回の訪タイ時、常磐ものとともにタイの近海魚が楽しみです。


宿舎に戻るとタイ在住のYouTuberで私のタイ語の先生と連絡が取れました。やはりそうなのかと思うことがありました。


2023タイ訪問記(13)終章〉へつづく

(旧き良き時代を感じさせる建物。Gyudon House)


2023タイ訪問記(10)バンコク第3日目(中)〉からつづく


「常磐もの」をめぐってジャカタムさん宅で意見交換。その後、長男の友人クンクラーンさんが経営する日本料理店に移動。夕食を共にしました。


ジャカタムさんから印象に残る助言を得ました。


販路拡大の対象として、高級な日本料理店のみならず、大衆向けの店舗をも視野に入れるべき。重層的に攻める方がよい。


(Gyudon House)


その意味がクンクラーンさんのGyudon Houseに到着してわかったような気がしました。旧市街に位置する店は単なる牛丼の店ではなかったのです。


今回の訪タイの予定をジャカタムさんに伝えたとき、「息子の友人に会わせたい。彼はGyudon Expressという店を経営している」とのメッセージが届きました。


「常磐もの」は魚であり、水産物。牛丼店では得るものはないだろう。そう私は高をくくっていました。


ところがです。


(炙り鮭イクラ丼)


日本の大手牛丼店を模した内装を想像していた私はいい意味で裏切られました。古い建物を改装したことがわかるものの、おしゃれで居心地のよい雰囲気。惹き付けられました。


たしかに看板料理(シグネチャー・ディッシュ)は牛丼であると謳ってはいるものの、海鮮丼や焼き魚など魚介料理も豊富に取り揃えています。


他にも支店があるとのこと。セントラルキッチン方式を採用しており、コストダウンと各店舗での調理の簡素化を図っているという。


(日本の紙鍋を使ったしゃぶしゃぶ)


北欧産のサーモンを使った丼ものやノルウェー産のサバの味噌焼き、紙鍋のしゃぶしゃぶ等をいただきました。ご飯そのものに改善の余地はあると感じたものの、どれも美味しいものでした。


牛肉はタイ国産で、調理法に工夫を加え和風に味付けしています。コメはタイ北部で日本の品種を栽培しているものを取り寄せているとのこと。


価格設定は決して大衆向けとは言えないものの、一般の人にとっては月に一度のご馳走という位置づけになるでしょうか。


(中央奥がクンクラーンさん。右端がジャカタムさん)


タイの人々の日本料理への熱い思いを目の当たりにしたGyudon Houseでの懇親でした。経営者のクンクラーンさんはコロナ前は年に数回日本に行き、調査研究していたそうです。


こういった店舗でも何らかの形で「常磐もの」を活用できる素地があると実感。ジャカタムさんの言う高級路線と大衆路線の双方向に訴えていくことの重要性を認識した次第です。


このあと、私たちは最後の訪問先である老舗の日本料理店「花屋」に移動。急ぎ足で20分歩くことになりました。


2023タイ訪問記(12)バンコク第3日目(続)〉へつづく

(バンコクの街角。こういう雑多な雰囲気が好きです)


2023タイ訪問記(9)バンコク第3日目(上)〉からつづく


1986年4月末の夕暮れ。当時19歳。京王八王子駅前の九州らーめん桜島(2019年3月閉業)の4人席でひとりでラーメンを食べていました。


男女二人が相席に。会話は日本語ではありません。聞き耳を立てているとタイ語だということがわかりました。


当時、独学でタイ語を勉強し始めたばかりの私は心臓が高鳴ります。タイ語で話しかけてみようか、いや、やめようか。


「あなたはタイ人ではありませんか」


いまでこそタイ語を話す日本人は珍しくありません。しかし、37年前はマイナーな存在。二人は驚き、喜びました。


タイ政府の派遣により八王子にあるJICAの研修所に来ていたとのこと。男性は医師でもある保健省職員、女性はチュラロンコン大学医学部の教授でした。


出会いから2年後。タマサート大学に交換留学生としてタイに渡った私は保健省職員のジャカタムさんに連絡。一家で寮まで迎えに来てくれ、チャオプラヤ川のほとりのレストランでご馳走になりました。


「将来はどうするの」


「交換留学を終えたら正式にタマサート大学の大学院に進みたいと思っています」


「じつは私の父はタマサート大学の学長を務めていたことがあるんですよ」


学長のあと、最高裁判所長官、首相を務め、当時は枢密院議長(国王の顧問)の要職にありました。その後、ご自宅に招かれたり、いっしょに旅行に連れて行ってもらったりするなど、ご一家と親交を深めました。


ある日、腹痛で苦しんでいたときジャカタムさんの職場に電話をしたところ、保健省からわざわざ薬をもって寮まで訪ねてくれたこともありました。


(ジャカタムさんが見守る中お父様・サンヤー先生の像に花輪を捧げる筆者)


大学院進学の私の意思が固いことを確認するとジャカタムさんはお父様にお会いする機会を設けてくれました。結果として推薦状を書いてもらうこととなりました。


結局、最強の推薦状をいただいたにもかかわらず両親の病気により進学を諦め、帰国することをジャカタムさんに告げました。心から励ましてくれました。また、交流しよう。何度でもタイにいらっしゃい、と。


時下りて35年。


ジャカタムさんのお宅の懐かしい居間に当時幼かった長男のカオ君(政府機関職員)、その友人のクンクラーンさんも同席し、ジャカタムさんに私は「常磐もの」の説明を始めました。


日本側は復興庁の委託を受け「常磐もの」の販路拡大の支援を行っている水産流通会社(東京)のKさん、いわき市久之浜の水産業者のAさん、市役所のM課長が見守ります。


しかし、質問が聞き取れない。答えもまともにできない。タイ語の力が思っていた以上に落ちていたのです。短期間とはいえ訪タイにあたり再学習をして臨んだのですがこのありさまです。愕然としました。


まるで難破船の刀剣のよう。錆びつき、フジツボまで付着してしまっていたのです。というより、頭全体が弱ってきているのでしょう。


そのような中にあってもジャカタムさんから有益な助言をいただくことができました。それはすぐあと実地にクンクラーンさんの経営する日本料理店に行って理解を深めることになります。


2023タイ訪問記(11)バンコク第3日目(下)〉へつづく

(バンコク・トンローの「鶴」にて)


2023タイ訪問記(8)バンコク第2日目(補足)〉からつづく


バンコク滞在3日目。離日前のギックリ腰がここにきてボディブローのように効いてきました。主要日程は夕方以降です。


昼過ぎまで宿舎で休養。近隣のうどん店「鶴」をひとりで訪ねました。自家製麺を謳っています。店内はすだれによって仕切られ、個室感を醸し出しています。BGMはジャズ。QRコードを読み取って注文します。


ぶっかけおろし(120バーツ≒480円)。タイ語では「生ライム冷うどん」との訳が。普通盛り150gにしました。大盛りは250g(30バーツ≒120円増し)です。ちなみに丸亀製麺の普通盛りは約250gと言われています。


タイでは麺はすするものではないと学んでいたので静かに口に運びます。コシは顎が疲れるくらいあります。鰹出汁も申し分なし。


客層は比較的若いタイ人。カップルや友達同士という感じです。日本人もいるのかもしれませんが判別できません。


留学時代、私の感じていたタイの食生活は一食の量は少なく、小腹が空いたら食べるというものでした。少量多種という印象でした。


ところがいまや明らかに変わりました。




店内を見渡すとボリューム感のあるうどんを食べている人が多くいました。明太子クリーム(360バーツ≒1,440円)を選んでいる人も。タイ人は胃袋も財布も大きくなった。そう感じました。


食後、足つぼマッサージを30分。痛みのある腰に施術は控えようとの私の判断です。なかなかに良質なマッサージでした。明日の出国前にもう一度来店しよう。1時間250バーツ≒1,000円です。


宿舎のあるトンロー地区は日系企業の駐在員が多く住み、日本料理店や日系のスーパーマーケットもあります。オーガニック専門店でドライマンゴーやハーブティーなどを買い求めました。会津若松の師匠からは香辛料のオーダーを受けています。


「1,111バーツです。幸運ですね!」


レジの人に感嘆されました。タイの人は数字に験(げん)を担ぐ習慣があります。階段の段数は基本的に奇数です。


「ほんとだ。あなたもご幸運を!」


ホテルにいったん戻り荷物を置いて、徒歩で15分ほどの集合地点に向かいます。今夕は2件のセッティングがあります。


タイ国第12代首相のご子息であるジャカタムさん宅を訪ねること。その後、タイ最古の日本料理店「花屋」の当主に会うことです。


ジャカタムさん宅で私は己れの至らなさに落胆することとなります。幸運は店員さんに行ってしまったようです。


2023タイ訪問記(10)バンコク第3日目(中)〉へつづく

(「常磐もの」について説明する筆者。奥様はご主人のカメラを見ています。私はタイ語が出てこず宙を睨んでいます)


2023タイ訪問記(8)バンコク第2日目(下)〉からつづく


「タイの日本食レストランが5,000店舗を突破、過去最大の増加数」とJETRO(日本貿易振興機構)は2022年12月にタイ発のニュースを発表しました。


・ 2022年は5,325店舗と前年から21.9%増加。増加数955店舗は2007年の調査開始以降最大の増加数となった。 ※休業中の店舗は含まれず。


・バンコク、バンコク近郊5県、その他の地方、いずれも伸びているが、特にその他の地方やバンコク近郊5県の伸び率が大きい。


・5,235店舗の地域別内訳はバンコクが2,394店舗、バンコク近郊5県・その他の地方が2,931店舗。なお、2012年は1,676店舗(バンコクが1,128、近郊5県・その他の地方が548)となっている。10年間で312%の伸び。


大使館広報文化部長のKさんによるとこの数字はJETROの一定の基準を満たした店舗のみの計算となるので、日本料理を1種類でも提供している店となると相当数に上るという。


さて、割烹ひさから宿舎に戻りました。ホテルロビーで旧友の夫妻と対面。11年ぶりの再会です。二人とも皮膚科医を務めています。


初めて会ったのが1985年8月。翌年の3月に再会。1988年に留学した際にも交流させてもらいました。


(旧友が38年前との比較画像を作成してくれました。筆者18歳。変貌を実感)


今回の訪タイの趣旨が「常磐もの」のPRであることをパンフレットを見せながら訴えました。


「ヒラメの刺身が好きです」


ご主人の言葉に驚かされました。


それが日本のヒラメなのか、タイのヒラメなのかは確認できませんでした。熱帯の魚は脂身がないので旨味はないはず。おそらくは日本料理店で供されたものだろうと思います。


「IZAKAYAにもよく行きます」


「居酒屋?」


ぼんじりなどがメニューに載っている写真を見せてくれました。ぼんじりは鶏のお尻の骨周りに付いている三角形の肉で希少部位です。


養鶏な盛んなタイではあるものの、こういうマニアックな部位を調理して出すことに変化を感じました。


この30年余の間にタイの食文化は変貌を遂げた。私はそう実感せざるを得ませんでした。


かつて留学で1年間滞在していたという体験が固定観念となって己れの価値判断を縛り付けている。役に立たない物差しであるにもかかわらず捨てられないでいる。


今回の最大の反省であり、学びでもあります。


タイの食文化の変化が何に由来するのか。そのヒントをタイで最も古くから店を構える日本料理店「花屋」で翌日知ることとなります。


いよいよバンコク第3日目に入ります。活動最終日です。

2023タイ訪問記(9)バンコク第3日目(上)〉へつづく


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