(師匠宅の庭先で可憐に咲く花)

からつづく)

鮨屋、串焼き屋とめぐり、締めはスナック「茶色の小びん」。店名の由来は、アメリカの往年のジャズナンバーの一つ「茶色の小瓶」をオーナーが愛していたからだという。

店の前まで来て、まざまざと私は思い出しました。15年前にもこの店で師匠と飲んだことを。日誌には7月11日金曜日とありました。

その際、私は飲みすぎて店外のフェンスにもたれて夜風に吹かれていました。いつの間にか師匠がそばに寄ってきて、覗き込むようにして尋ねました。

「○○○さん、戦ってる」

思っても見ない質問に私は答えに窮しました。いや、正確に言えば、戦っていない自分が恥ずかしく答えられなかったのです。

いま思えば師は戦っている渦中にあったのだ。15年の月日が過ぎ、顧みてわかります。

長所と短所、言い換えれば、光と闇を、他との比較においてではなく、師は透徹した眼であくまでも己を俯瞰します。自身に才能あることを客観視すると同時に闇の部分にもあえて目を凝らします。

その同じ眼差しで私も射抜かれてきました。光も闇も。

店に戻ると、師匠はマイクを握って「妖怪人間ベム」の主題歌を歌っていました。

「早く人間になりたい」

師匠の思いを代弁しているのだろうか、何らかの比喩なのだろうか、師はじつは妖怪人間なのか。

歌の中でそのフレーズが流れるたびに、私は考えてしまいました。妖怪人間というよりは「人間妖怪」なのかもしれない、と。

走馬灯のように15年前を振り返りつつ、席に座りました。前回はテーブル席でした。今回は美しいママを対してのカウンター席。


(夜の会津若松)

お通しが美味です。別腹が即座に起動。冷たいサラダと郷土料理風の夏野菜の入った茄子炒りです。じつに美味しい。

この店に似合うのはやっぱりバーボン。フォア・ローゼズの水割りを飲みながら、師匠の歌う曲に耳を傾けました。

テレサテンの「つぐない」
なかなかに哀切の漂う歌い方です。ペーソスというのでしょうか、歌声から切なさが伝わってきます。

酒井法子の「碧いうさぎ」
「あとどれくらい切なくなれば、あなたの声が聴こえるかしら」。これまた胸に迫ってくる歌です。

ちあきなおみの「黄昏のビギン」
初めて聞く曲です。「雨に濡れてたたそがれの街 あなたと逢った初めての夜。ふたりの肩に銀色の雨...」。哀愁を感じます。素敵な歌詞。一つ一つの言葉が胸奥に沁み入ります。

山本コウタローとウィークエンドの「岬めぐり」
「二人で行くと約束したが 今ではそれもかなわないこと...悲しみ深く胸に沈めたら この旅終えて 街に帰ろう」

師匠の胸には何が去来するのだろう。「かなわないこと」という言葉がたまらなく切ない。

というわけで、千鳥足で師匠宅に戻り、梨のリキュールを飲み始めたところまでは記憶しています。翌朝午前5時前に目が覚めました。シャワーを浴びて寝静まった家から逃げるように辞去しました。

サボテンの花や庭先の花を盗っ人のように撮影。じつに濃厚な会津若松の夜でした。師匠に深謝。

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