(自分の影。オーラのようなものが見える)

火力発電所の社宅の共同浴場。もちろん男女に分かれていました。脱衣場はバレーボールのネットくらいの高さまで板の仕切りがあり、声だけは双方から聞こえました。

「お母さん、上がったか」

「上がったよ」

父母のやり取りで私たちきょうだいも同時に共同浴場から外に出ることができます。

9号棟の真ん中の階段の入口までは20メートルほど。両親と一緒なら夜道も怖くありません。

矢追純一のUFOスペシャルを見たあとにひとりで行く風呂への往復の道のりは恐怖そのものでした。「多感だった時代『金平糖石けん編』」に詳述している通りです。

洗面器を縦に、いや、盾にして顔を覆いながら疾走。石鹸を地面に落とし、砂だらけになった石鹸を手探り拾ったものです。石鹸がイボイボの金平糖のようになっていました。

さて、夜風に吹かれながらアパートの階段の入口に近づくと私たちは親にねだります。コーヒー牛乳を買って、と。

1階の右側のお宅はなぜか牛乳を販売していました。呼鈴を鳴らし、玄関を開けると、狭い玄関に小さなショーケース風の冷蔵庫が置かれていました。

お目当てはその中にあるコーヒー牛乳です。玄関で飲む至福の1本でした。

4階まで階段を上って我が家に向かいます。子どものころ、各階の踊り場に備え付けてある火災報知器の赤いランプが不気味に感じました。


(HAL 9000のカメラ・アイ 出典:ウィキペディア)

後年、映画「2001年宇宙の旅」を見たとき、私はどきっとしました。人工知能のHAL 9000のカメラ・アイがその火災報知器にあまりにも似ていたからです。

さて、4階の我が家に到着。寝支度です。

キンチョールを天井の四隅にしゅっと母が吹きかけます。私はキンチョールのにおいが嫌いで逃げていました。

布団を敷いたあと、部屋いっぱいの大きな蚊帳(かや)を吊りました。いま思うと網戸というものがなかったのでしょうか。

部屋の隅から蚊取り線香の煙がほのかに漂ってきます。眠りに就く前、トイレに行くときにめくる蚊帳の感覚が好きでした。

蚊帳の内と外。世界が違って見えました。

Comment
浴場から住居入口までやっとの思いで辿り着いたのも束の間。
そこで気を抜いてはいけないのです。
今度は4階までの階段が待っているのです。
浴場から入口までの宇宙人に選ばれてしまうのではないかという「SFチック」な恐怖に対し、今度はおどろおどろした「日本の怪談」が待っているのです。
蛍光灯の点滅、最悪な場合は真っ暗!!
階段なだけにまさしく怪談の世界!!

1人での夜の入浴は命がけでした。
  • おこちゃん
  • 2017/07/12 14:55
おこちゃん 様 ご愛読いただき、ありがとうございます。

あの階段は正直言って怖かった。電気が付いたり消えたり、真っ暗だったり、恐怖の階段でした。

でも、いま行ってみるととってもちいさなおもちゃのような階段です。

おどろおどろしい雰囲気などまったくない。不思議なものです。
  • だいこんくん
  • 2017/07/18 21:41





   

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