(屹立した風景が好きです)

ふとした過去の一瞬を思い出すことがあります。30年前のタイ・バンコクの学生寮。留学生である私は3階の個室をあてがわれていました。

寮は王室の敷地内にありました。相当に年代物の建物。個室とはいえ、私には独房のように感じました。

シャワールームの壁は漆喰が剥がれ落ち、不気味な雰囲気が漂っていました。3畳ほどの広さに40ワットの裸電球が一つ。

意外に広いのです。壁が汚れているため、余計に薄暗く感じます。片隅に壊れた洋式便器がありました。

角にある排水口はふたはなく、黄泉の世界への入口のように真っ暗です。

シャワーは水だけしか出ません。地下水を汲み上げた水です。

いくら熱帯のバンコクとはいえ、朝晩の水のシャワーは冷たい。滝に打たれる荒行ほどのものではないものの、「よしっ」と相撲の立会いに向かうかの如く気合いを入れなければなりません。

私はシャワーを浴びるとき、決まって安全地帯の「悲しみにさよなら」をかけることにしていました。己に課した儀式のように。

カセットテープレコーダーの再生ボタンを押して、「♪泣かないでひとりで〜」と始まると、水の冷たいシャワーもなぜか浴びることができました。

ところが、時折、黄泉の国に通ずる排水口から見事なタキシードを着込んだ奴たちがぞろぞろとお出ましになることがありました。

舞踏会でもあるのでしょうか。日本では見たことのない体格です。じつに立派で堂々としています。そして、飛びます。

殺虫剤をいくら噴霧しても、びくともしない。不死身のターミネーターのようです。

私は昆虫の弱点について研究。脇腹にある気孔を塞げば窒息させられることを知りました。塞ぐ材料は界面活性剤。

以来、私はタキシードを着た御一行が現れるたびにティモテのシャンプーで攻撃。黄泉の国の主たちを撃退することができました。

そんなことを暑さが極まった物憂い午後に思い出しました。私の青春の一コマです。

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