分厚いA4判封筒を開けると定期検診の結果が入っていました。

「非結核性の陰影を認める」---目が釘付けになりました。20世紀最後の年の3月初旬のことです。

早速病院に行きました。

「先生、影があるんでしょうか」

「X線写真でわかりづらいかもしれないけど、右肺の右下に影があるね。CTを撮りましょう」

私は根っからの悲観主義者で、頭の中は真っ白になってしまいました。祖父が、そして両親が、がんで闘病した同じ病院で肺がんの疑いで検査が始まりました。

3週間後、再び呼吸器外来です。中待合室での待機は恐怖でした。

「だいこんさん、これはがんの可能性が高いですね」

「先生、私、たばこやりませんけど」

「あんまり関係ないんです。若いのに残念です。私だけの見解じゃないですよ。CTの先生も意見書に腫瘍の疑いありと書いてますよ。ほら」

魚屋さんのような、よく通る声で主治医は私に淡々と告げます。

母のCT画像で見慣れたものが写っていました。アンドロメダ星雲のように渦巻いて見えました。改竄でもコピペでもない、私の病巣が写っていました。

「生検をやりましょう。気管支鏡を飲んでもらいますから。それから、肺がんは転移が早いので、骨、内臓、脳への転移の検査もやります」

「気管支鏡って大変なんですか」

「がんばってください!」

“がんばって”という言葉がこのときほど他人事に聞こえたことはありませんでした。

駐車場に戻り、ラジオをかけると、エルトン・ジョンの“Can you feel the love tonight?”がちょうど流れ始めました。ものすごく悲しくなって、とめどもなく涙と鼻水が出て、ティッシュ1箱を使い切ってしまいました。

ちょうどその日は自分の誕生日でした。
へつづく)

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