- 2016.02.28 Sunday
万年青
(オモトが織りなす世界)
未知の深淵を垣間見るとき私は心躍ります。久しぶりに知人宅を訪問。鉄骨造りの温室のようなものを組み立てている最中でした。
「何を作っているんですか」
「オモトを入れる小屋を作ってんだ。交配させるのに」
「オモトの交配って何ですか」
「オモト、わがんねぇのげ。『万年青』って書く観葉植物だよ。こっちきてみぃ」
南京錠で施錠されている隣の小屋に招じ入れられました。鉢が所狭しと並べられています。
一見すると、元気のなくなった君子蘭の葉のようにも、干からびた昆布のようにも見えます。
(金額にしたら相当なものです)
「これは5年経ったやつ。こいつとこいつを交配させるんだ」
「オモトの雌雄は別株なんですか」
「雌雄両性なんだけど、発情期にこいつのオスを殺して、こっちの花粉をつけてやるんだ」
話の内容がよく理解できません。オモトは発情する植物なんだぁと思いながら、小学生のとき読んだイギリスのSF小説『トリフィド時代』を思い出しました。
歩く食虫植物の話です。読了後、夢にたびたび出るようになり、よくうなされました。「トリフィド」と画像検索すると不気味な挿絵がご覧になれます。
さて、知人のオモト談義はますます熱を帯びてきます。
「こいつのゲイ※はいいね」
「ゲイ?」
「葉の色合いとかシワを芸っていうんだよ。芸を競うんだ。フラワーセンターでやる品評会に出して5位に入れば全国大会に行けんだ」
公益社団法人日本おもと協会によると「徳川家康が江戸城入府の折り、3本のおもとを携えたという故事」があるという。由緒ある植物のようです。
江戸期に大名の間で栽培が盛んになったそうで、利殖の対象にもなり、一部のオモトには一芽百両という値がついたという。
さらに明治10年には一鉢1000円(現在の貨幣価値にして1億円)というものもあったというのですから驚きです。(出典:ウィキペディア)
(平成27年の万年青銘鑑=番付です)
知人はまだ小さな鉢に入っているオモトを手に取りながら、沁みじみと語ります。
「こいつは協会に登録してあってね、白い色がうまく出れば、80万円にはなるな」
鉢に「舞子」や「円心」といった名札が差されています。
交配の結果、その独自性が認定されるとその自分が考案した名称が協会に登録されるという。驚いたことに毎年番付まで発表されるのだそうです。
オモトを見ていたら、不思議なことにとろろ昆布を入れたうどんが食べたくなりました。今夜はうどんにします。
また一つ未知の世界が増えました。
※芸(げい):万年青における葉の状態や葉姿、柄などの特徴の総称をいう用語。(出典:ウィキペディア)
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